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鹿島の欠陥マンション問題19年、なぜ動き出したか(4)~久留米市、検証の約束ほごに

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新生マンション花畑西

 2013年2月、耐震強度が基準の35%以下だと判明しても、住民側はすぐに提訴したわけではなかった。まずは、久留米市に相談し、構造設計1級建築士の仲盛昭二氏の構造検証結果を提出して建物が安全かどうかの検証を依頼し、解決への対応を求めた。
 耐震偽装の姉歯事件では、耐震強度50%未満のマンションなどが行政によって解体命令を受け、住民の退去や建て替えが行われた。住民らは当然、市が検証して、危険なら、解体命令などを出し、もし安全ならば安全宣言を出してくれると思っていた。
 現理事長の寺崎敏和氏はこう語る。「マンション倒壊という恐怖と隣り合わせの生活を送っている。1日も早くこの恐怖から解放され、普通の生活に戻りたいだけだ」。

90世帯250人の命よりも建築確認ミス隠蔽を優先?

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 住民の中には、住み続けるのを不安に感じ、別のマンションに住んでいる人もいる。所有者の1人は「コンクリートの塊が落ちてきたとき、下に人がいたらどんな大怪我になっていたかもしれない。そのうえ耐震強度が35%。こんな危険なマンションに、住み続けられない」と憤る。空いている部屋は、賃貸に出すため見学案内の用意をしているが、まだ借り手はいない。二重ローンの負担がかさむ。

 久留米市は、住民らの「90世帯約250人の命がかかっている大問題だ」という繰り返しの訴えを聞いて、いったんは検証を約束し、13年5月15日には、検証作業を一般社団法人日本建築構造技術者協会(JSCA)に依頼して13年9月末までに構造レビューを終えるという工程表を示した。ところが、約束を反故にして、「検証できない」という態度に豹変した。
 くい打ちデータ不正が発覚した三井住友建設施工のマンションで、横浜市が建築基準法違反に該当するかどうかは別としても建物の安全性を重視して業者を指導し公表した姿勢と、久留米市の姿勢は、住民にとって正反対に映る。
 寺崎氏は久留米市との協議には、副理事長として最初から参加していた。「住民の命や財産はどうなってもいいという態度だ。建築確認の際に、地盤種別の偽装を見逃した市のミスが発覚するのを恐れて、隠蔽に走ったとしか思えない」と批判する。

適切な専門家のサポートが不可欠

 行政による指導や処分に期待できないことが分かったとき、住民らが途方に暮れることなく次の訴訟という手段に進むことができたのは、建築の専門家の存在が大きい。技術的な裏付けなしに、鹿島らの責任を追及することは不可能だったからだ。
 鹿島らを相手取った損害賠償請求訴訟で、鹿島が「設計ミスの問題は、施工した鹿島には関係ない」と他人事のように主張したときにも、建築の素人なら、法的には「設計は設計、施工は施工」と騙されたかもしれない。1級建築士の仲盛昭二氏らが、地盤の種別偽装や地質調査資料がないことから生じた今回の欠陥について、施工者が負うべき責任だと、施工の現場を知る立場から反論する技術書を作成し、裁判闘争を技術面から全面サポートした。

 普通の欠陥マンション紛争は、長期化に伴って住民が分裂したり、販売会社やゼネコンとの交渉に疲れ果て、泣き寝入りすることもよくある。
 「しつこく、技術力抜群」で、「アリは象に踏まれても死なない」が口癖なのが、仲盛昭二氏(1級建築士)だ。相手がスーパーゼネコンや国・行政など強者であっても、屈服することはない。仲盛氏が味方に付いた以上、住民が泣き寝入りすることはありえない。
 寺崎理事長は、引き渡し直後に欠陥が相次いだ頃に「被害者の会」として活動したが、技術面で鹿島に太刀打ちできず、住民も1つにまとまるのは難しかった。「仲盛さんがいたからこそ、ここまでこれた。1日も早く安心して生活できるマンションを取り戻したい」と、決意に燃えている。
 住民側にとっては、当初から技術力のある専門家(1級建築士、弁護士ともに)が関与していれば、約20年の苦難の道のりが軽くなったことは間違いない。
 くい打ちデータ偽装をきっかけに、新生マンション花畑西の欠陥問題の報道も相次いでいる。くい打ちデータ偽装の横浜のマンションでは、三井不動産レジデンシャルは早々と全面建て替え・買い取りの方針を示して、下請けの旭化成グループを悪者にして、三井不動産グループのイメージ悪化を防いだ。スーパーゼネコンで日本建設業連合会会長企業の鹿島建設は、どのような収拾策を示すのか。裁判はまもなく山場を迎える。

(了)
【山本 弘之】


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