鹿島建設(株)が福岡県久留米市で元請施工したマンションの欠陥をめぐって、住民らが損害賠償を求めた訴訟が進行している。住民らは竣工・引き渡し直後から数々の欠陥に苦しんで19年。販売会社、元請業者、下請業者らと繰り返し交渉し、久留米市にも相談してきたが、一部補修工事がされただけで抜本的な解決にいたらなかった。2013年2月に、耐震強度が50%を大きく下回り倒壊の恐れがあることが専門家の調査で判明してから、劇的に状況が進んだ。それまでも建築士や弁護士が関与しながら、事態は打開できなかった。損害賠償請求権が消滅する除斥期間の20年経過を目前にして、なぜ裁判闘争が動き出したのか。
「19年間疲れた。安全なマンションがほしい」
落下したコンクリート塊
「19年間、正直疲れました」。マンション管理組合理事長の寺崎敏和氏は、ため息をつく。「被害者の会」を立ち上げて、約30~40世帯前後が運動したが、途中で開店休業状態に陥った。被害者が仕事や日々の生活を抱えながら、スーパーゼネコン鹿島を相手にして、運動を続けるのは苦労の連続だった。
「安全で契約どおりのマンションにしてくれればいいのに、それを求める私たちが、なぜこんなに苦労しなければいけないんですか」。
最初の欠陥は、1996年1月の竣工の直後から、機械式駐車場で起きた。
このマンションは、西鉄の特急停車駅花畑駅から徒歩5分に建つ「新生マンション花畑西」。鉄骨鉄筋コンクリート造、地上15階建て、92戸。元請・鹿島建設(株)、下請は地元の中堅ゼネコン(株)栗木工務店が施工した。販売会社の新生住宅(株)はすでに廃業。「15階建て、パノラマビュー」や「全室南向き」「優良分譲、全戸住宅金融公庫融資付」「施工鹿島建設」を売り文句に、人気を呼んだ。
「敷地内駐車場100%完備」もセールスポイントの1つだった。その機械式駐車場で不具合が発生し、96年8月には自動車を載せるパレット落下事故まで起きた。年間5~9件のトラブルが発生し、安心して駐車場が使えない状態が8年間も続いた。
その後、建物のコンクリートのひび割れ、コンクリート塊の落下などが相次ぎ、住民側は、新生住宅や栗木工務店と交渉するも埒が明かないため、2002年、元請の鹿島と直接交渉を求めた。
建築コンサルタント、耐震強度不足を見抜けず
新生マンション花畑西
鹿島側の文書は、当時のことをこう記述している。「機械式駐車場の瑕疵問題に端を発し、建物本体の瑕疵に対する苦情が寄せられるようになった。瑕疵の内容は、鉄筋コンクリート躯体について、鉄筋を被っているコンクリートの厚さ不足があるためコンクリートが剥落などを起こしたり、中の鉄筋に錆が生じてひどくなり爆裂という現象を惹起してきたり、コンクリートにクラックが発生したり、モルタルが浮いたり、タイルが浮いたりなどなど多数の瑕疵に対するクレームが寄せられるようになった」(栗木工務店を相手取った損害賠償請求の訴状)。「栗木工務店の対応が不十分」とも指摘している。
鹿島が住民総会で抜本的な補修工事を約束したのが、2004年6月だった。
住民側は、建築コンサルタントに依頼するなど専門家の支援を仰いでいたが、当時の建築コンサルタントは、現在大問題になっている構造設計の偽装による耐震強度の不足、杭が地盤に到達していない可能性、地盤の偽装、重要な梁の未施工、梁と柱の不適切な緊結などを見抜くことができなかった。
その結果、鹿島の補修工事は、共用廊下や外壁などにとどまり、耐震偽装が発覚するまでに約10年間がかかった。
(つづく)
【山本 弘之】